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食器泥棒で解雇の誤解。

by gogomon

18歳の頃、上京し美術予備校の寮に住んだ。なんとなく三浪くらいして芸大合格なのかなと甘いことを思っていたので、ファミレスでアルバイトをはじめた。

ああ、芸大受けるんだ。ふーんと、白いジャケットを着た店長がスカスカの僕の履歴書を見ながら言った。予備校生の履歴書には興味はないようだった。

その髪切れる?と、店長は僕の頭を指差した。そういえばしばらく髪の毛を切っておらず、少しボサボサになっていた。言い方が腹立ったので、切りませんと言ったら

「あれでしょ。大学受かるまで切らないやつだ!初めて見た!いいねえ!」と喜んだ。どういうわけか、採用になった。

でも、その髪じゃ人前には出せないと、皿洗いに配属された。高校時代も皿洗いのバイトをしていたので、気が楽だった。同僚に小柄なおばあさんがいた。たしか名前を山口さんといった。

年は親子以上に離れていたけれど、僕たちはいいコンビだった。そしてよく働いた。店長が巨大冷蔵庫内で棚卸しをしている時に、外からドアを閉めて閉じ込めたり、全ての食器を一揃えくすねたり、イヤなバイトの同僚の靴にゴキブリの死骸を入れたりしては、2人でゲラゲラ笑った。

洗う皿がないときは、裏に出てタバコを吸った。婆さんはおっさんみたいなタバコの吸い方をした。いつタバコを吸いはじめたの?と聞くと、ガキの頃からよ。父さんのタバコをくすねてね、と答えた。そして、山口さんはふうと白い煙を吐き出した。なんか悲しそうだった。

その頃、僕のスケジュールは過密だった。早朝の学科のコースに出て、午前から夕方まで絵や粘土をやって、夕方からバイトをして、夜はまた絵を描いて、飲めない安酒を飲んで、寮の仲間と話をした。だけど、1日も予備校は休まなかったし、手は抜いたけどバイトもサボらなかった。

そんな日々を半年も続けて秋となった。ある日、予備校の先輩が僕を呼び止めて言った。

お前、ガッコもバイトも頑張ってるよな。でも、もうさすがにバイトをやめて一浪でどこか私大に入ったほうがいい。芸大なんかにこだわらない方がいい。おれは4浪してもう後がないけどなと言った。

3つ、4つしか変わらないのに、先輩は僕よりずっと大人だった。その時、急に浪人を重ねる恐ろしさがわかった。全く先の見えない恐怖。怖い、と思った。

お前は芸術には生きないだろう、と見透かされたんだと思う。

その日、予備校帰りにバイトを辞めると店長に言った。急な申し出にも店長は怒ることなく、逆に頑張れよと言ってくれた。なんでも食べろと、高いパーコー麺をご馳走してくれた。店長、冷蔵庫に閉じ込めて殺しかけてごめんね。

おれ、この店の食器盗んだんですよねと言ったら、山口さんに聞いたよと店長は笑ってた。あのババア、告げ口してたのか。自分もくすねていたくせに。僕は共犯者に裏切られていたことに、なんか無性に腹が立って、山口さんに挨拶もせずにバイトをやめてしまった。

次の日、段ボール箱に盗んだ食器を入れて返しにいった。
「お前、こんなに盗んだのか……」と、店長が呆れていた。一応、古いものを盗んでいたので、そこは評価してくれた。店長すみません。
洗い場を覗いたら、山口さんが僕を見てコソコソと逃げてしまった。山口さんは、自分の告げ口で僕がクビになったと思っていた。バイトをやめると、同僚も山口さんでさえも、自分と全く関係のない人間のように思えた。結局、「食器泥棒による解雇」誤解は解かずにファミレスを後にした。悪いことしたな。
ただ、フォークはすごく好きな形をしており、いまだにうちで使っています。店長、すみません。


gogomon
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